感受性の豊かな若い学生時代って、
先生の何気ない一言が深く心に残ったりしますよね。
この記事は、そんなお話です。
私が18歳、大学に入学してすぐの頃。
苦しい受験勉強を終えて、
やっと自分の興味のある学問分野の勉強ができる。
私は大学で行われる授業にとても期待し、
ワクワクしていました。
「皆さんの中に、数式が浮かび上がってみえる人はいますか?」
さて、第1回目の授業。
先生は50歳前後の物理学の教授で、とても上品な雰囲気をお持ちである。
そして、穏やかな、優しい目が印象的である。
受講者は、
大学に入学して間もない18歳~20歳くらいの学生、計40人くらい。
まずはじめに先生が自己紹介をし、
その中で、カリフォルニア工科大学(アメリカにある世界有数の工科大学)で
研究をしていた時代の話に言及される。
ただし、決して自慢気ではなく、その口ぶりは淡々としていて優しい。
先生
「私、実は、カリフォルニア工科大学にいる頃に、
ファインマン先生(※)から直接、お話を聞いたことがあるんですね。」
(※)ファインマン先生
リチャード・P・ファインマン教授。アメリカ出身で、1965年にノーベル賞を受賞。「ご冗談でしょう、ファインマンさん」(岩波現代文庫)という自伝もあり。大学教授のイメージとはかけ離れて、型破り、それでいて人間味の溢れる性格、振る舞いも有名。
先生
「そのときにファインマン先生がこう、おっしゃっていたんです。
「私は、数式を書いているとき、書いた数式のうちで重要なものだけが浮かび上がって見えるんだよ。」
って。」
ここで先生、コホンと咳払いを一つ。
先生が私たちに問いかける。
先生
「皆さんの中で、数式が浮かび上がって見える人はいますか?」
先生は穏やかな、でもまっすぐな目で、教室の40人をじっと見つめておられる。
決して冗談で言っているわけではないことが分かる。
教室は沈黙。
誰からも手は挙がらない。
先生は、「そうですか。」とニコリとして、
授業を進行していく。
「いや、いるわけないでしょー!」との私の心の声、でも、じんとくる何か。
私は心の中で、全力でこう突っ込みました。
「いや、そんなノーベル賞受賞者と同じ能力をもった人が、
たかだか40人の教室の中にいるわけないでしょー!」
でも、先生からのその問いかけは、なぜか私の胸をじんと熱くして、
10年以上経過した今でも、私の記憶に強く残っているんです。
では、何が、そんなに私の胸に響いたのか。。。
それは、あまりにも可愛らしく、無邪気な好奇心
先生はきっと、「数式が浮かび上がってみえる人」の存在を知って、
驚くとともに、感嘆したに違いありません。
そして、こう考えたと思うんです。
「え?自分にはそんな能力はないけど、自分の身の周りにはいるかもしれない、ってことだよね?」
「えー、いたらどうしよ?」 ワクワク。。
「実際、どんなふうに浮かび上がってみえるんだろう?」 ワクワク。。
このように考えた結果、
授業の初めに生徒たちに質問することにしたと思うんですよね。
もちろん、ノーベル賞受賞者と同じ能力をもった人が、
この40人のクラスの中に存在する可能性なんて、
ほぼゼロです。
でも先生は、「もしかしたら。。。」という期待を捨てることができない。
好奇心を抑えきれない。
それで、ついクラスの皆に質問しちゃう。
この発想が、50歳前後の教授にしてはあまりにも可愛らしくて、
かつ、あまりにも無邪気なように、私には思えたんですね。
珍しいクワガタの存在を知って森に探しに出かける少年のような、
そんな純粋な好奇心を、私は先生の言葉から感じとったんです。
大学生からすれば、大学の先生とは「大人」を代表するような存在です。
偉くて、頭がよくて、冷静で、落ち着いている。
そんな「大人」のイメージがあったからこそ、
少年のような好奇心を丸出しにした発言とのギャップに、
私は驚きました。
そして、知らないことを知りたい、という、とても純粋な好奇心を、
幼少期から50歳に至るまで保ち続けたままの「大人」が目の前にいる、
ということに、私は心を動かされたんだと思います。
実際の授業と加速するダンディズム
その先生の授業は内容的には難しかったけれど、
物理学を分かりやすく教えよう、
という先生の意思を強く感じさせました。
回転の運動を説明するために、
自転車のタイヤを改造して教室に持ち込み、
タイヤを手にもちつつ自身もコマのようにクルクルと回られていたのが、
強く印象に残っています。笑
ちなみに先生の名前を検索してみたところ、
ご尊顔を拝見できたのですが、
当時よりも渋みを増して、
さらに格好いい紳士になっておられました。
自分もこんなふうに、いろいろなことに子供なような好奇心をもって、
人生を、楽しく、情熱をもって生きていきたいな。
そんなことを思わせてくれる、とても素敵な先生でした。
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