兄が会いに来た。

「日曜日の都合はつく?」

そんなメールが来たんです。

故郷に住む兄から。

 

ぼくはいま、単身で関西に生活していて、
兄は、関東の実家のすぐ近くに家族で住んでいるんです。

年が近かったこともあって、
小さい頃はよく一緒に遊んだ気がする。

おもちゃを取り合ったり、
一緒にゲームをしたり。

ただね、まったくケンカをした覚えがないんです。

なんでだろう。

ぼくが欲しいと思うものを、
兄がすべて譲ってくれていたのかもしれない。

生来の気質として、やさしい人であったとも思うんです。

不機嫌になることはあっても、人に八つ当たりすることはしないし。
大声をあげることもない。
おっとり、穏やか。
クラスの中でも、いじられる、愛されるタイプだったみたい。

高校あたりで挫折したようではあるけど、
それまでは勉強もできて、

クラスでも学級委員をやったり、
生徒会役員に選出されたり、
周りからの信頼も集めていた。

ぼくはそんな兄に対抗心を燃やして、

兄のかよう塾には自分も行きたかったし、
兄が学級委員をやるなら、ぼくもやりたかったし、
兄が生徒会役員を1期でなく2期つとめるなら、ぼくも同じだけやりたかった。

当時は意識しているつもりはなかったけど、
今振り返ってみると、めちゃくちゃ意識していたな。笑

兄の背中をみて、
とにかく、それと同じか、それ以上のことをやりたかった。

兄弟の弟とは、どこもそんなものなんでしょうか。

 

18歳で、ぼくは実家を出てね。

兄は、一時、実家を離れたけれど、
やがては故郷に戻り、家族をもった。

今では、子供もいる。

 

ぼくが長期の休みでたまに実家に帰ることがあるじゃないですか。

するとね、必ず、会いに来てくれるんです。

兄の住む家と、実家が近いとはいえ、
ぼくは、これを当たり前のことだとは思わない。

子供の面倒をみる必要もあるし、
仕事とか家族の用事もあったりするだろう。

家を空けるとなれば、
お嫁さんだっていい顔をしないだろう。

そんななかで、
弟の顔を見るために実家に立ち寄るってね、

本来なら、けっこう優先順位が低いことだろう、とぼくは想像しちゃう。

それでも兄は会いに来てくれる。

 

でね、飲めないお酒を飲む。

ぼくはね、めっちゃお酒が強いんですけどね、
兄は弱い。

もうすぐに、顔が赤くなる。

美味しいと感じているのかは
分からないけれど、

とにかく、ぼくが飲むから、
兄も一緒に飲んでくれるんですね。

久しぶりに会うんだから、
お酒でも飲もうよ、っていうような。

兄なりの歓迎をしてくれているんだと思うんです。

やさしいよね。

 

そんな兄の態度を、ぼくは嬉しく思っていた。

ただね、やっぱり、ここ最近ね。

やっぱり話すこともあまりないんですよ。

ぼくは、独身生活をずっと続けているし、
兄は、家族がいて、なんやかんや忙しくしている。

お互いに家族がいれば、子供の話やら、
なんらやできるかもしれないけど、

会っても、一緒にテレビをみるくらいで、

そうでなかったら、お互いにスマホをみてね。

「元気か。」とか、
「身体に気をつけてな。」とか。
そのくらい。

実家にいれば、
同じ空間に親がいたり、
兄の子供が一緒にいる。

それならいいけど、
2人きりになったら、いよいよ気詰まりになるぞ、と。

ぼくはうすうす、そんな気持ちでいた。

2人きりはどこか避けたいような、、、
でもまあ、そんな環境になることもないから、
それでよかった。

 

そんななか。

冒頭のメールです。

ある用事があって一人で関西にくるから、
都合がつくなら一緒に会おう、と兄がいうんです。

そのメールをもらったときね、

嬉しかったんですよ。

ぼくと2人きりになって、気まずくないのかと。

ぼくが感じていた、兄との距離感。

兄が感じていた、ぼくとの距離感。

ぼくの場合は、それが結構離れていて、
兄の場合は、もっと近かったんだろうか。

なんだか、一気に懐に飛び込んで来られたような気がした。

で、悪い気がしなかった。
むしろ、嬉しかったんですよね。

とても。

 

ぼくは、家族の中で、自分が腫れ物であるような気がしていた。

いや、実際に、少なくとも、両親にとって、
ぼくは腫れ物であると思っている。

30代も後半になって、
結婚もせず、
家族もいなく、
そこから大きなキャリアチェンジをして、
いっこうに家庭をもつ気配もなければ、
これからの仕事も住む場所も未定。

それよりなにより、
ぼくは幼少期にぼくのことをほったらかしにした
両親のことを心よく思っておらず、
むしろ憎んでいて、

ぼくは、心を開かない。

会話だって、必要な会話しかしない。

嬉しかったことも、悲しかったことも、
両親には話したいとは思わない。

自分の心の内を、親には知られたくない。

パートナーができても言わないし、
日常でおきた出来事を話すこともない。

かたくなに。

こんな、子供、親からしたら、扱いずらいじゃないですか。

ぼくが、もっとアホでバカな人間だったら、
親もさぞ扱いやすかったんだろうな、とも思う。

 

で、兄もまた、両親と同じく、
ぼくのことを腫れ物みたいに感じてるのかな、と感じてた。

自分のことをいっこうに語ろうとしない、
扱いずらい、話しづらい人間であるように。

それを少し、寂しく、
悲しく思っていたけど、

実際にそう思っているのだとしたら、
冒頭のメールなんてこないよね。

用事があったとしても、
わざわざ一人で、弟のもとに会いに来ようとしないよね。

実家に帰ったとき、たいして話もしないけど、

「日曜日の都合はつく?」
っていう、そのメールで、

弟の自分を気にかけてくれているのが伝わってきて、

腫れ物でもなく、フラットに見てくれているのを感じることができて、

兄がぼくを、心の距離の近いところに置いてくれているのを感じて、

それが嬉しかったんだと思う。

(いや、なんだろう、この嬉しさを言葉で表現するのが難しい。

 

でね。

都合がつくか、と兄がきくのでね、

ぼくは、

なんなら、泊まっていけば?といった。

せっかくだからと。

なんせ嬉しかったから。

これはぼくなりの、感謝の表現。

 

で、兄は、結局、ぼくの家に1泊し、
1泊2日の日程で、

途中、関西を観光したり、もろもろして、
帰っていきました。

道中、やっぱり話すこともあまりないです。

兄は、いっしょうけんめいポケモンGOをやっていたし。笑

でもそれでよかった。

会話の量じゃないのかもしれない。

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