「ジヴェルニーの食卓(原田マハ著)」より。マチスとピカソ

ぼくの大好きな小説の1つに「ジヴェルニーの食卓」があるんです。

著者は原田マハさん。

この本は短編集で、
それぞれの短編で有名な画家を描いてる。

マチス、ドガ、モネ、、、、

それは昔、アートシーンの中心がフランスであった頃、
まさにそのフランスで活躍していた人たち。

でね。

どの短編も、とても素敵なんです。

ぼくはこの本を友人から借りて読んだ。

仕事の都合でちょうどフランスに滞在しているときで、
だから、より感情がのったのかもしれない。

年末年始に風邪をひいちゃって寝込んでいて、
ベッドから這い出すのは難しい、、、

でも、本を読むくらいはできる、
そんな状況だったんですよね。

ベッドの中にもぐりこみながら、
熱でぼーっとする頭で読んだのだけど、

それでも、そのすべての短編で泣いた。

涙が次から次へと出てきて、枕が濡れた、湿った。

それくらい感動した。

マチスの優しさに。
ドガの野心・執念に。
モネの情熱に。

読んだあと、本当に爽快な気持ちになった。
いい小説を読んだっていう満足感で胸がいっぱいになった。

 

で。

今日は、その短編集の第一話、
「美しい墓」のことを語りたい。

主役はアンリ・マチスです。

 

この短編で描かれる風景、
人と人との交流、、、
すべてが美しいんです。

舞台は南フランス。

なんかそれだけで、美しい海、海岸、
真っ青な空が浮かんでくる。
潮の匂いが鼻をくすぐる。

マチスはそこにアトリエをもっていた。

でね。

そのマチス(当時もうかなりの高齢)のところに、
女の友人が、若い娘を雑用係として送り込むんですね。

その若い娘からしたら、
すでに世界的に有名なマチスのもとで
働けるなんて、嬉しくてしょうがない。

もう、全身全霊をこめて、
マチスにお仕えする。

他のスタッフと一緒になって
食事やティーの準備をするのはもちろん、
何よりも、マチスがそのアトリエでなんの気兼ねもなく
創作に打ち込めるように心を配る。

まずね。
この女の子のまっすぐな純真さに
心打たれるんです。

先生(マチス)のために。
先生のために。

そういう一念ですべての行動が決定されているような、
まっすぐでピュアな思い。

マチスへの敬意、尊敬。そして献身。

 

そのアトリエでは、すべての物、配置にも意味があって、
マチスは空間的にも時間的にも、ここ、という構図、瞬間をとらえて
それを創作物に落とし込む。

でね、娘はあるとき、花を花瓶に飾るんです。

で、マチスは、その美しさ、、、といっても、
花や花瓶自体の、ではなくて、
その周囲に存在するもの、照らす光、を含めた総合的な美しさに心を奪われて、
娘に聞くんです。

どうして、この花をこういうふうに飾ったんだい?と。

で娘がいう。

こうすれば、先生が恋をなさるかと思って。

 

痺れた。この娘の返答に。

ここで、恋、っていうのは、
人に対する恋ではなく、

キャンバスに描く対象に対する恋をさしてるんですよね。

素敵な言葉じゃありませんか。

「恋をなさるかと思って」って。

美しいもの、構図に対するハッとするような衝撃、
そしてそれが自分の心を捉えてやまない、、、
それを恋と表現するのがとても素敵だと思ったんです。

 

ともあれ。

そう、ピカソとマチスの話です。ここからが本題。

この2人は仲がよかったそうなんですね。

いっときは、2人ともが南フランスの近い場所に住んでいた時期も
あるらしく、交流もあったらしい。

で、この小説の中で、

戦争、に対する、2人の画家のアプローチの仕方についての
話が出てくるんです。

どういうことかっていうとね。

ピカソが戦争を描いた作品として有名なものに
ゲルニカ、がありますよね。

学校の美術の教科書にものってるくらい有名ですよね。

あんなふうに、ピカソは戦争を恐ろしいもの、禍々しいものとして描いた。

戦争とは、こんなに悲惨なんだ。こんなにも悲劇を生むんだ。

だから、戦争なんてやっちゃいけないんだ。

やめるべきだ。

そういう祈りを込めて、戦争を描いた。

絵からは、負の情念、怨念が匂い立ってくる、そういう作品になっている。

 

で一方ね。マチスです。

マチスもね、戦時中、戦争で苦しむ人に対して、絵を描く。

でもね。

明るいんです。絵が。

なぜか。

彼は、戦争の恐怖を見せつけるために絵を描くのではない。

絵を見た人が、一瞬でも辛い現実を忘れることができるように。

ほんのひとときでいい。
現実逃避でもいい。

自分の絵と相対しているその瞬間だけ、
目の前のあまりにも苦しい現状から目を背けられるように。
心に希望の灯がともるように。

そんな願いを込めて、描く。

ねえ。

美しくありませんか。
温かくありませんか。

ぼくは涙が出てしまう。
このマチスの思いに。

なんて尊いんだろう。
なんて優しいんだろう。

自分だって戦時中で、
食べ物もなく、
いつ爆弾が落ちてくるか分からない不安の中で、
心が殺伐としていたっておかしくないはずなんです。

それでも彼は、
美しいものを、
人間の、生きることの素晴らしさを、
希望を、
人のために描く。

ピカソとマチスのどっちがすごいとかって話ではない。

でも、ぼくはこの、ピカソと対比して描かれたマチスに
恋をしてしまった。

その、人、もっといえば人類に対する優しさ、温かみ、のようなものに
打たれてしまった。震えてしまった。

そのマチスの心根をとても美しいと思ったんです。

 

こういう背景を知ってから、マチスの絵を検索してみてみると、
また違った見方ができますよ。

たしかに、原色の色がきれいで、みている人の気持ちを明るくしてくれる。
そんな力をもっているような気がしないでもない。

 

絵に、そんな力があるのだとしたら、もちろん文章にだってある。

マチスは、自分の絵画に祈りを込めた。

これを観た人の心が晴れますように。
希望をもてますように。

自分は絵は描けないけど、そんな気持ちで文章を書きたいなって思うんです。

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