ちょっと時間が経ってしまったのだけど、3月に山形の蔵王温泉に一人で旅行してきまして。ここでちょいとその話がしたいのです。
なぜ蔵王か。
もちろん、理由の一つは温泉。
そしてもう一つ。
宮本輝です。
錦繍です。
ぼくは、この小説がとても好きで。読んだのは何年も前のこと。もはや内容もちょっとうろおぼえ。確か夫が不倫をしていて、その夫に対して妻が送った手紙で構成されている小説で。ただ当時、とても心を動かされたのを覚えてる。少なくとも、周りの友人に、ぜひ読んでくれ、って本を貸したぐらいには。
で、この小説の冒頭。
「前略 蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした」
これで始まる。
だから、この小説を読んだときから、蔵王に行ってみたかった。
ドッコ沼をみたかった。
ゴンドラにのってみたかった。
小説の主人公がみた景色を自分の目でみてみたかった。
でだ。
ぼくは蔵王に行きゴンドラにのった、、、でもドッコ沼をみることはできなかった。
なぜか。
3月の蔵王は、まだ春スキーを楽しむ人がいるくらい雪が積もっていて、ドッコ沼が雪で埋まっていたから。。。
・・・
ぬおおおおおおお!!!!!
なんじゃそりゃああああ!!!!
なぜ、、、ふ、ふ、ふぬぅ、、、なぜだああああ!!!
ぼくはね、3月の蔵王を完全に舐めてた。
3月も後半になっていたからさ、一般的な感覚でいうと、もはや春じゃないですか。実際、蔵王にいく手前の山形駅ではね、ジャケットもいらないくらいの気温だったんですよ。だから、蔵王だって、さすがにもう雪解けしてるんじゃないか、くらいに思ってたんですわ。
でもね、とんでもなかった。
ぼくは、その間違いに、蔵王のバス停に降り立ったときに気がついた。もう寒いのなんの。気温は10度を下回っていたはず。ジャケットを羽織るだけじゃ全然足りない。ヒートテックももってない。ガタガタ震えてしまうくらいに寒いんだ。
でもさ、ここまで来た以上、どんなに寒かろうと、ゴンドラにのって、ドッコ沼に行ってみたいわけ。だって、関西から蔵王にくるのに、どんだけの時間とお金がかかっていると思うのさ。それでもう、こちとら意地になってね。寒いのを我慢して、ゴンドラ乗り場に直行したんですわ。
でね、受付の人に聞く。
ぼく「あのー、、、ドッコ沼にいきたいんですけど、このゴンドラに乗ったらいいですか。」
受付の人が困ったような表情をなさる。
ぼく「???」
意味が分からず、次の言葉を待つ。
受付の人「えーと、、、今の時期は、ドッコ沼は雪で埋もっていて見れません。」
ぼく「!!!!!!」
なんてことだって思ったよね。まさか、関西から遠路はるばるやってきて、目的のものを見れないなんて。こんな悲しいことがありますか。悔しいことが、切ないことがありますか。
ええい。じゃあいい。
もうドッコ沼を見るのは諦める。
せめて、ゴンドラにだけはのらせてくれ。
じゃないと気が済まん。
で乗ったんだ。
このとき、まだ、ぼくは知る由もなかった。
山頂ゆきのゴンドラにのれば、気温がさらに下がることを。
ゴンドラって、青々とした木々の上をカプセルみたいのがロープウェーで運ばれていく様子を想像しません?ぼくもそうだった。でも、3月の蔵王っていったら、そこは山というより、スキー場なんだ。そして、そのゴンドラは観光客を運ぶためのものでなく、スキーやスノボを楽しむ人が山の上にのぼるためのツールなんだ。
となると、どういうことが起きるかというとね。
ゴンドラに、薄着をした私服のぼくが乗り込んで待っている。そこに、次々とスキー用の厚手の服を着こみ、きっちり防寒対策した民が乗り込んでくる。もうね多勢に無勢。恥ずかしいのなんの。場違いも場違い。皆の憐れんだ目が痛いったらねえ。
そして、山頂に向かって動き出すゴンドラ。
ますます下がっていく気温。
もうずっと震えてた。
文字とおりにガタガタと。
ああ、もう無理。
これは具合悪くなるやつだ。
風邪ひいたらどうしよう。
関西に帰れなくなる。
ああ、、、頼むから早く到着してくれ。
乗ってる時間は10分くらいなのに気が遠くなるほど長く感じる。
そして到着。
案の定、周りは雪原。一面の銀世界。
はい、ムリーーーーーーー。
受付の人が言っていたのは正解。
ドッコ沼はみれません。
そもそも、こちとらスニーカーだぜ?
こんな靴で雪の上を歩くなんざ、どだい無理な話だ。
おっけ、もう気が済んだ。
ゴンドラにのれて、目標達成。
もういい、帰ろう。
帰りのゴンドラは30分後。
とにかく30分の時間を潰せる、あったかいところ、あったかいところ、、、
あ!!!あった!!!
併設されていたカフェに飛び込む。
ストーブの前の席を陣どり、かじかんだ手をあっためる。
ああ、なんとか生きてる。
いや、寒さで人は死にます。本当に。
帰りのゴンドラがくるやいなや、一目散に飛び込んだはいいものの、
寒すぎて出発までの5分間を待つことができないので、
まカフェに戻って出発ギリギリまで時間を過ごし、直前になって再度、飛び込む。
そして苦行の10分間。
ガタガタ震えながら、身体の温痛覚をなんとかシャットダウンさせる方法はないかと、そんなことを考えながら、ようやく山頂から戻る。
命からがらですよ。本当に。
ああ、生きててよかった。
このときは、本当に安堵のため息がでましたよね。まったく。
そして、宿泊予定だった旅館に駆け込む。
とにかく暖を!
ぼくに暖をとらせてほしいのです。
旅館は、家族経営の、庶民的な、民宿のようなところ。
蔵王の中では安いところにしたもんで、
設備には期待していなかった。
期待はしていないけれど、
それでも最低限の設備はあると思ってた。
しかし。
部屋につくと、女将さんが仰る。
女将「えーと、今、この部屋の暖房が壊れていて、、、」
ぼく「!!!!!!」
いや、ちょっと待ってよ。
ウソだろ。
こちとら、極寒の中を命からがら生き延びてきてさ。
いや、薄着できちゃったぼくも悪いよ?3月の蔵王の寒さを舐めていたのはぼくだよ。
でもさ、暖房が壊れているってのは、さすがにあんまりじゃない?
冬だぜ?ぼく、死んじゃうよ?
旅館で凍死する人が出たら、困るのはおたくではないですか?
どうか、ぼくに暖房器具をください。
どうか、ぼくをあっためてください。
お願いだから。。。
女将「代わりにガスストーブを用意しました!(ニコ」
いや、ニコっ!じゃねええ。。
ウソだろ。
この部屋、12畳くらいあるけど、それをこのガスストーブ一台でいけっていうの?
さすがにムリだろ、女将さん。
いくら笑顔が素敵でも、さすがにやりすぎだって。
でも、ひとまず、飲み込む。
ぼく「わ、、、わかりました。ありがとうございます。(ニコ」
こちらも大人ですからね、大人の対応をしたんですわ。
ガスストーブの設定気温を限界まで上げると、なんとかいけないことはなさそう。これをつけっぱなしにしとけば、なんとか夜を越せるかもしれない。
そう思ったんだけどね。
油断していたよ。
そのガスストーブがさ。
一定の時間がたつと、安全のためにアラームがなる。
で延長ボタンを押さないと、自動的に止まるようになってるんだ。
もう、何が起きたかお分かりでしょう?
夜、寝ていると、アラームがなり、勝手にガスストーブがとまる。
部屋の気温が急激に下がる。
目が覚める。
あわてて、ストーブをつける。
ストーブがとまる。
部屋の気温が急激に下がる。
目が覚める。
ぬおおおお!!!!!!!
風邪ひいちゃうぞ、おれ!
旅先で風邪なんてひきたくないよおお!!!
寒いのいやだよおおおお!!!!
バン!バン!(発狂して旅館の畳をたたく音)
今回の旅で得た教訓。
山は寒いから防寒をしっかり。
ホテル・旅館は、部屋の気温・湿度を適切に保てるところにしろ。
以上です。
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